NBA優勝と得失点差の歴史

 ファイナルも佳境に入りつつあるNBA。「レブロン・ジェームスの自身10回目となるファイナル出場」など、NBAではさまざまな数字・スタッツも注目されるところだが、私は個人的に、こと「優勝」というテーマにおいて最も注目すべき数字は、レギュラーシーズンの「得失点差」(※)ではないかと考えている。今回は、過去20年間の優勝チームと、その優勝チームと対戦し敗れ去ったチームの得失点差を分析しながら、「得失点差」という数字の持つ意味について考えてみたい。


※得失点差…プラスが大きければその分、相手よりも得点をを多く取っていることを表し、マイナスが大きければその分、相手のほうが多く得点をと取っていることを表す数字。要は、どれくらいの点差で勝ったり負けたりしているかを表す。よく勝っているチームはこの数字がプラスに大きくなる傾向にあり、逆によく負けているチームはマイナスに大きくなる傾向にある。




【2000-2020 得失点差 一覧表】

・2000 レイカーズ +8.5(1位)
  ※2位:ブレイザーズ +6.4(WCFで対戦、4-3で勝利)
・2001 レイカーズ +3.4(2位)
  ※1位:スパーズ +7.8(WCFで対戦)
2002 レイカーズ +7.1(2位)
  ※1位:キングス +7.6(WCFで対戦、4-3で勝利)
2003 スパーズ +5.4(3位)
  ※1位:マーベリックス +7.8(WCFで対戦)
2004 ピストンズ +5.8(2位)
2005 スパーズ +7.8(1位)
2006 ヒート +3.9(5位)
2007 スパーズ +8.4(1位)
2008 セルティックス +10.3(1位)
  ※2位:ピストンズ +7.4(ECFで対戦)
  ※3位:レイカーズ +7.4(ファイナルで対戦)
2009 レイカーズ +7.7(2位)
2010 レイカーズ +4.7(6位)
  ※1位:マジック +7.5(ファイナルで対戦)
2011 マーベリックス +4.2(8位)
  ※1位:ヒート +7.5(ファイナルで対戦)
2012 ヒート +6.0(4位) 
2013 ヒート +7.9(2位)
  ※1位:サンダー +9.2(ファイナルで対戦)
2014 スパーズ +7.7(1位)
  ※5位:ヒート +4.8(ファイナルで対戦)
2015 ウォリアーズ +10.1(1位)
  ※5位:キャバリアーズ +4.5(ファイナルで対戦)
2016 キャバリアーズ +6.0(4位)
  ※1位:ウォリアーズ +10.8(ファイナルで対戦)
2017 ウォリアーズ +11.6(1位)
  ※7位:キャバリアーズ +3.2(ファイナルで対戦)
2018 ウォリアーズ +6.0(3位)
  ※14位:キャバリアーズ +0.9(ファイナルで対戦) 
2019 ラプターズ +6.1(3位)
  ※1位:バックス +8.9(ECFで対戦)
  ※2位:ウォリアーズ +6.5(ファイナルで対戦)
2020 ? 
  ※1位:バックス +10.1
  ※2位:クリッパーズ +6.4
  ※5位:レイカーズ +5.8
  ※8位:ヒート +2.9 


■「リーグで3本の指に入る得失点差」が持つ破壊力

 過去20年間、リーグ1位〜3位の得失点差で優勝を果たしたチームを数えると、実に15チームに及ぶ。これは、リーグトップクラスの得失点差を持つということはイコール優勝に大きく近づくということを示す、特筆すべき事実にならないだろうか。

 例えば、過去22シーズンにわたってプレイオフ出場を継続(惜しくも今季この記録は途絶えてしまったが)したスパーズは、この20年間において優勝した回数は4回あるが、その中で得失点差が1位だったのは3回。優勝する年はほぼ得失点差が1位なのである。堅い守りで勝つイメージが強いスパーズだが、実は守った上でしっかり点も取っている。



 直近の5年間で毎年ファイナルに進出し、3回の優勝を果たしたウォリアーズもまた得失点差に優れたチームで、5年間のうち3回でリーグトップの得失点差だった。特に、ケビン・デュラントが加入した1年目の16-17シーズンは、過去20年間で得失点差が最も高い「+11.6」を記録。圧倒的な大差で試合に勝ち続けた証拠だ。また、ウォリアーズの場合、第3ピリオドまでに試合の大勢が決してしまっていて第4ピリオドには主力がコートに出てこないというケースも多かった。その上で得失点差が非常に高いのだから、実はもっと圧倒的な得失点差を記録することができていたと言っても過言ではないだろう。

 



■得失点差が高くないチームでも優勝する可能性はある

 一方で、得失点差が高くなければ優勝はできない、というわけでもない。過去20年間で見てみると、2010年のレイカーズ(6位、+4.7)、2011年のマーベリックス(8位、+4.2)なんかは、成績としてはかなり低いほうであったにもかかわらず優勝を果たしている。しかも、いずれもファイナルで対戦したのは得失点差が1位のチーム(2010年:マジック、+7.5/2011年:ヒート:+7.5)だった。




■「得失点差の壁」を覆すレブロン・ジェームズ

 確かに、得失点差が高くなくても優勝の可能性はないわけではないが、その差が大きければ大きいほど優勝は難しくなるのも事実。しかし、そんな中でも定説を崩す男がいる。それはレブロン・ジェームズだ。レブロンがキャバリアーズに在籍し、ウォリアーズとファイナルで対戦した4年間を見てみると、彼の異常さが伺える。その4年間だけ改めて切り取って見てみたい。


・2015 ウォリアーズ +10.1(1位)

  
5位:キャバリアーズ +4.5(ファイナルで対戦)
・2016 キャバリアーズ +6.0(4位)
  ※1位:ウォリアーズ +10.8(ファイナルで対戦)
・2017 ウォリアーズ +11.6(1位)
  7位:キャバリアーズ +3.2(ファイナルで対戦)
・2018 ウォリアーズ +6.0(3位)
  14位:キャバリアーズ +0.9(ファイナルで対戦) 

 おわかりだろうか。この4年間、ランキングの3位までに入ったことは一度もなく、2018年に至ってはリーグ14位の+0.9と、リーグでもほぼ真ん中、数字としてもギリギリプラスに転じるのがやっとというレベルだった。特にこの年は、プレイオフの出場も東4位からと振るわなかったにもかかわらず、2回のゲーム7(ペイサーズとのファーストラウンド、セルティックスとのカンファレンスファイナル)を制してファイナルに駒を進めてきた。いやはや、この男はやっぱりすごすぎる…




■定説を逆の意味で覆してしまったバックス

 2019年、2020年とこの2年間の得失点差1位はバックスだった。2年連続MVPのヤニス・アデトクンポを擁し、昨年も今年も「今度こそ優勝はバックス」と叫ばれながらも、昨年はカンファレンスファイナル、今年はセカンドラウンド敗退となってしまったバックス。レギュラーシーズンでは圧倒的な強さを誇り、「止める術がない」とあらゆるチームがサジを投げていただろうが、やはり短期集中決戦となるプレイオフは戦い方が変わってくる。得失点差の観点からも、期待を裏切ってしまったチームになるかもしれない。




■今年のファイナルは得失点差でいうと落ち着いた両者の対決

 2006年を除き、ファイナルの出場チームのどちらかには、必ず得失点差ランキングの1位もしくは2位が入っていた。シャック&コービーを擁したレイカーズの3連覇の時代で言うと、ファイナルで対戦した2チームは得失点差ランキングの上位2チームの対戦だった。一方で、今年のファイナルはその流れからは外れ、5位のレイカーズと8位のレイカーズが相まみえる対戦となった。現在のところレイカーズが2連勝と一歩リードするものの、下克上を果たしてきたヒートも決して侮れない。ファイナルの残り試合、この得失点差も考えながら見てみると、また違った面白さを感じられるかもしれない。


参考:「NBA Advanced Stats/2019-2020/Regular Season/+/-」

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